悲恋と火山のお話 悲しみが永遠の愛に変わる

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日本とメキシコの歴史の長さに敬意を表し、今回も両国の文化に触れていきます。以前も申しました通り、両国の類似点や相違点を浮き彫りにするために歴史や文化の根幹を掘り起こし、お互いの「根」を知ることで両国関係をより強めるきっかけにしたいと考えています。

メキシコで受け継がれている文化の豊かさについて、皆さんにお話できるのは光栄です。今回もよく知られているメシカ文化(アステカ文化)の神秘に溢れたある場所の伝承をお伝えし、いつものように古代メキシコと日本の類似点を探ろうと思います。

■2つの火山にまつわるお話

最初にある伝承をお話しします。

古代メシカ帝国の時代までさかのぼります。メシカ帝国の軍団が戦争から帰還しました。いつもであれば戦勝を祝うために、古代の太鼓のテポナシュトルやウェウェトルの鼓動も、法螺貝の鳴りがメキシコ盆地にあたるアナワクの広大な大地に響き渡るのですが、今回は様子が違いました。あの鷲の戦士たちもジャガーの戦士たちも、コヨーテの指揮官と呼ばれた将軍も羽根飾りが破れ、土と血に汚れた服が風になびくだけでした。そうです、負け戦の末の帰還でした。男たちを待っていた女たちは、その姿を見ると泣き出し、子どもたちを奥に隠してこの軍団の不名誉な帰還を見せないようにしました。

そんな暗い雰囲気の中で、戦略に秀でた老賢たちの集まりであるヨピカは、彼ら戦士たちの帰りを待ちわびていました。なぜなら、どうしてこれほどまでに恥辱にまみれた敗北を喫したのかを聴くためです。

軍団が到着すると、敗軍の中から一人の戦士が進み出ます。軍装は乱れていましたが、部族にふさわしい高潔さと誇りは失っていません。戦士の態度は、彼が圧倒的多勢の敵に対して最後まで戦ったことを物語っていました。

その勇ましい彼を見つめる女たちの中でただ一人、泣いていない娘がいました。娘は驚愕して、この戦士をただただ見つめるだけ。そして二人の目が合った時、娘は蒼白になって気絶しそうになります。かつて愛と忠実を誓った恋人が、この戦士だったからです。

すると娘は傍らにいた古代都市トラスカラから来た男に目をやり、自分を騙したと激怒します。このトラスカラの男は、娘にこの戦士はサポテコとの戦いで死んだと誓約の下に証言して妻にしていたのでした。

娘はその場から走り出します。トラスカラの男も後を追いけます。そんな光景に戦士が気付き、目の前で起きた一瞬の出来事を理解して、憤怒と共に武器を握りしめて二人を追い掛けます。トラスカラの男の手が逃げ去る娘の服にもう少しで届こうという時、かの戦士が追二人に追いつきます。トラスカラの男は武器を取り出し、戦士もジャガーと猪の牙が埋め込まれた棍棒を掲げ、愛と偽りが息つく間もなく交錯して闘いが始りました。

そして日没ごろ、戦士はトラスカラの男に大きなダメージを与え、傷を負ったトラスカラの男は逃げ出しました。愛と真実によって勝利した戦士は帰途に就き、道すがらあの娘、彼の恋人を探します。すると娘は谷の中腹でぐったりと横たわっていました。いつの間にか、あの嘘つきのトラスカラの男が彼女に傷を負わせ、それがもとで亡くなっていたのでした。

偉大な戦士は娘の死体の傍で膝を落として大泣きし、ヨロソチル(モクレン)の花で作った花冠を娘にかぶせ、香の一種であるコパルを焚きます。その瞬間、戦士は死の使者トラウェルポチが黒雲に乗って空をよぎるのを見ました。すると、たちまち大地が揺れ、雷が落ち、アナワクの大地に身も毛もよだつ天変地異が起こります。

天変地異の夜が明けて、人々は驚愕しました。渓谷しかなかった大地に一晩で雪のかかった巨大な2つの山が現れたのです。ひとつは白い花でできた棺の上に横たわる女の形で、もうひとつの高い山は、その娘の足元に跪く戦士の形をしています。その時以来、アナワク盆地に2つの火山が誕生したのです。それが「白い女」という意味のイスタクシワトル山と「煙を吐く」という意味のポポカテペトル山です。

この物語の余談として、この天変地異に関して、老賢人たちは長い間語らず、史家であるトラクイロたちも記録しませんでした。彼らは、天から燃える意思が降り注いだこの自然現象にの恐怖を覚え、彼らがあがめる神々の御業として口にするのも恐れたからです。

スペインによる征服時代まで、不幸な愛や悲劇の愛のために死んだ娘たちは、愛の苦痛により息絶え、現在では美しい白い山となって愛する戦士と永遠に結ばれたイスタクシワトル山の麓に葬られました。ちなみに卑怯で嘘つきなトラスカラの男も生まれ故郷の近くで息絶え、雪を頂く山になったと言われています。それが今日では「星の山」と知られるシトラルテペトル山で、遠くから別れることのない二人を見つめています。

■伝説の山、その現在の姿は

この2つの火山は現在、モレロス州、プエブラ州、メキシコ州の境界上にあり、遥か昔からその地域の先住民たちの聖域です。2つとも約73万年の歴史があると言われています。ポポカテペトル山は、標高約5,500mの活火山、メキシコで2番目に高い山で、イスタクシワトル山は、標高約5,200mで現在のところ地震活動が認められる3番目に高い山です。ちなみに、メキシコ最高峰はベラクルス州にあるオリサバ山で、標高5,610mの火山です。3つともに観光用の登山路があり、美しい景色に囲まれています。

■悲しみの果てに誓う

日本とメキシコの神話や伝説、昔話には非常に興味深い類似点があります。この物語のように、悲恋により人が山や岩、島になって永遠の愛を誓う物語が日本各地に伝承されていると聞きます。それらは霊峰やご神体として人々から崇められ、今日に至るまで聖域とされているそうです。今もイスタクシワトル山とポポカテペトル山の2つの山には花や食べ物、飲み物などが捧げられています。ポポカテペトル山に至っては地球だけでなく、全宇宙への雨乞いも毎年行われているそうです。古来から人と自然、そして見えざる愛を慈しむ姿は、日本人もメキシコ人も同じように思えてしまうのは私だけでしょうか。

この伝統についてのドキュメンタリーがありますので、ご覧になることをお勧めします。

México Nuevo Sigloの『Soñar con Dios(神を夢に見る)』。もうひとつはcalmécac Xochipilliの『Los cuatro vientos(四方の風)』です。どちらもYouTubeで閲覧可能で『Soñar con Dios』は字幕付きで見ることができます。

<参考文献>

・Edad dinámica, geomorfológica y tipología de barrancas en el sector norte del volcán Popocatépetl, México, boletín de la sociedad geológica mexicana. 2017.

・Iturbide Mercedes (2005) Popocatépetl, Iztaccíhuatl. Instituto Nacional de Bellas Artes

・Tradición oral mexicana.

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