ヒストリア・デ・テアトロ 常に“今”と向き合うメキシコの演劇界

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演劇は、俳優、監督、技術などのスタッフたちにより、観客をはじめ全ての人の感情を解き放ち、そして現代社会を鏡のように映し出します。ただ、演劇というテーマについて全てを書こうとしたら、とても幅広い内容になってしまいます。そこで今回は、現代まで大きな変化を遂げてきたメキシコ演劇界が辿ってきた道のりにスポットを当ててお話しします。

まずは、簡単にアメリカ大陸発見以前のメキシコ先住民の時代まで溯ってみましょう。その時代は「演劇」として一般的に周知されていません。それに私たち現代人の持つ概念でも作られてはいません。舞台の上では神々を崇拝するための華麗な儀式が執り行われ、ドラマティックなダンスと共に伝説や言い伝えられた神話などの長い演説が行われていました。

その後、スペイン人が「ヌエバ・エスパーニャ」と呼ぶ植民地時代を迎え、カトリックの布教を大々的に行うためにフランシスコ会のような団体が、皆にわかりやすい福音メッセージを音楽と組み合わし、それらを舞台で披露しました。こうして福音演劇が誕生します。その特徴は、最初は宣教師によって作られていましたが、その後は先住民族が演じるようになっていったことと、その時間の経過と共にキリスト教の儀式がふんだんに取り入れられ、その劇中で祝われるようになったことです。当時のエピソードとしてこのような話が残っています。布教を目的に宣教師たちが地方に行く時は、俳優やミュージシャンを連れていくことが習慣になっていました。彼らは自分たちが披露するものに厳かな雰囲気を求めましたが、先住民族にとっては初めて目にする見るものだったので、その驚きからか、お祭りのように振舞うことが多かったようです。

その後、聖職者階級の没落と先住民族の人口減少により福音演劇も衰退していきます。そして舞台では、その哲学思考が基となる宗教演劇が演じられるようになります。劇場も姿を変えてこれまでの開放的な屋外ではなく、屋内に設けられるようになり、宗教的な内容だけでなくラテン系、ギリシャ風の演劇も演じられるようになります。加えてコメディや18世紀スペインの風俗喜劇であるサイネテなどもお目見えし、植民地時代に多様化したことによって、宗教的な演劇とそうでないものが分けて上演されるようになりました。この時代を代表する劇作家の一人にソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルスがいます。彼女は寸劇や歴史的価値のある演劇を制作して、後世に影響を与える作品を残しました。

植民地時代からメキシコ独立へと移る期間に演劇は、民衆に受け入れられるものになります。これまで上流階級や聖職者によって支えられていたものが、より多くの人々によって自由に表現できる場となり、今も残るキリストの誕生劇である「パストレラ」もより洗練され、斬新な表現で演じられたものが人気を集めるようになります。そのような風が吹く中で地主による不正や搾取を表現し、民衆の声を訴える場ともなりました。この時代を代表する劇作家の一人に『La noche más venturosa』が代表作の「メキシコの思想家」として知られるホセ・ホアキン・フェルナンデス・デ・リサルディが挙げられます。

1900年代初頭のカジェス大統領時代になると、政治の不安定と反カトリックを掲げた彼の聖職者や宗教への迫害はメキシコ演劇に大きな影響を与え、宗教演劇が衰退すると同時に、世界的な前衛派の影響を受けた近代的な演劇が出現します。メキシコシティのコロニア・ローマ地区にある「アントニエタの家」で、ある活動が芽生えます。サルバドール・ノボ、ハビエル・ビヤルティア、セレスティーノ・ゴロスティーザ、ギルベルト・オーウェン、アントニエタ・リヴァス・メルカドなどが先駆けとなり、彼らはメキシコシティのエル・カチャロで作品を発表するようになりました。これが1928年1月に劇団として誕生した、メキシコの実験的劇団として前衛表現の発展に大きく貢献し、メキシコ演劇界の歴史に深く名を残す「テアトロ・デ・ウリセス【Teatro de Ulises】」の礎です。専門家は彼らのことをこのように評しています。

「彼らは「鏡」のような存在。つまり、メキシコの現実を描写することで国際的な状況を見つめることのできる存在。このような表現方法で社会に(演劇の)必要性を高めた、メキシコの演劇にとってとても重要な存在である。」

更に1932年には、ホセ・ゴロスティサとハビエル・ビジャウルティアの後援の下に「オリエンタシオン劇団」が設立され、後に創設された演劇芸術学校Escuela de Arte Teatral(EAT)de Bellas Artesに影響を与えました。

もうひとつ、メキシコの演劇界に重要な人物が登場します。「現代演劇の父」として知られ、カンヌ国際映画祭の審査員も務めたロドルフォ・ウシグリです。有名な作品のひとつに1938年発表の、国を治めていた当時の党の権威主義を描いた『El gesticulador』があります。彼は創作した作品の中で公然と政治批判を行い、そのためベイルートとオスロの大使館に避難することもありました。

国の文化振興と演劇作品をもっと世に広めることを目的に、団体設立の試みがなされました。1961年に初めて公的な試みがなされ、国立劇団「Compañía Nacional de Teatro(CNT)」が創設されます。1971年に活動を始めましたが、連邦政府から公式に認可されたのは1977年7月20日です。54名の俳優、19名の演出・脚本家などのスタッフ、7名の舞台美術家、6名のアシスタントディレクター、そして6名のディレクターが2つのグループに分けられ、それぞれJiménez Rueda劇場とdel Bosque劇場で公演を行い、それ以来CNTは、メキシコの演劇組織として多くの人々から認められています。CNTの公式サイトでは、その歴史やコンセプトをこのように述べています。

「Compañía Nacional de Teatroは、私たちの演劇の歴史にとって不可欠な存在です。メキシコの歴史は数えきれないほどの変化に左右されてきましたが、最も大切な目的であるドラマトゥルギー(演劇による社会観察作用)を駆り立てること、いかなる息吹を取り入れて自由に演劇表現を行うこと、クリエイターの提案と達成可能なことについて大いに対話を行うことなどは、決して怠ることはないでしょう。」

現在、グアナファト州レオンでは幅広いジャンルの演劇が上演されています。

2月8日からフリエタ・エスコバル監督作品『Curva peligroso』の上演を皮切りに演劇イベント「Más Teatro 2019」が始まりました。『Curva peligroso』は友人関係である3人の人生を描いたもので、彼らは15歳で人生を一転させる経験をしてティーンエイジャーとは一体どういう時代なのかを模索するという内容です。María Grever劇場で毎週金曜日、3月15日20時まで上演されます。

次にご紹介するのは、ゲンマ・キロス監督の『Said, el monstruo』です。自分がモンスターであることに気付いた10歳の男の子が主人公で、彼はモンスターを嫌う人がいることを知り、初めのうち拒絶されないために自分がモンスターだということを隠します。しかし、様々な経験を経てありのままの自分を受け入れる大切さを知るというものです。2月10日から3月17日まで、毎週日曜日13時からMaria Grever劇場にて上演しています。

また、演劇に親しんでもらう目的で行われている「Teatro escolar」というイベントでは、マル・ジョーンズ監督の『La guerra en la isla de la paz』が上演されています。Manuel Doblado劇場で3月19日まで行われ、月曜から金曜の9時、11時、15時の1日3回公演で、入場は無料です。詳細はウェブサイトをご覧ください。

https://www.mexicoescultura.com/actividad/209451/la-guerra-en-la-isla-de-la-paz.html

次回もメキシコの文化についてお伝えできることを楽しみにしています。

<参照サイト>

・Díaz de Chamorro, María del Carmen. Antecedentes históricos del teatro popular tradicional mexicano. El Colegio de Michoacán, Michoacán, México.

https://www.colmich.edu.mx/relaciones25/files/revistas/014/Ma.delCarmendeChamorro.pdf?fbclid=IwAR0sqRiIPWBRsJ8_XvD_8j7XtAjTzGP_cRBVRull4CAxIcBPu87bSlSnSZg

・Perea, R. (2013, 16 de abril). 85 años del Teatro Ulises. Proceso.

・Domínguez Michael, C. (2006, 31 de enero).  Teatro completo, V. Escritos sobre la historia del teatro en México, de Rodolfo Usigli. Letras Libres.

https://www.letraslibres.com/mexico/libros/teatro-completo-v-escritos-sobre-la-historia-del-teatro-en-mexico-rodolfo-usigli?fbclid=IwAR320NTbn26ALaBnLrqDxL1QHC2MHg1e_fQGPHbfLq638GBs1BDky5A1hA4

・(2019). Compañía Nacional de Teatro. Ciudad de México.

https://cnteatro.inba
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