時空を超える伝道 トラクイロの巧みと意識

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日本とメキシコの歴史の長さに敬意を表し、今回も両国の文化をご紹介していきます。以前も申しました通り、両国の類似点や相違点を浮き彫りにするために歴史や文化の根幹を掘り上げ、お互いの「根」を知ることで両国関係をより強めるきっかけにしたいと考えています。

今や物事を残すことは、昔と比べて容易な時代となりました。私たちはそれぞれに確立した言語を持ち、それを使い伝え残す手段も数多く存在する世界に生きています。しかし数百年前に溯ると、両国においてもそれが難しい時代が存在していたのは、皆さんもおわかりのことでしょう。

16世紀のナワ族の社会において、メキシコ古代史叙述家である「トラクイロ」【Tlahcuilo】とは、現代で言うなれば書記、画家、作家、賢者といったところでしょう。ナワトル語で「絵で書き記す者」という意味を持つ彼らは、美と芸術と花の女神で「豊かな羽根の花」という意味の「ソチケツァル」【Xochiquetzal】に仕えし者として、保護と導きを得ていました。才能を認められた男女が高等教育機関であるカルメカク【calmécac】で若い時から訓練を受け、言語、宗教、政治、天文学、占星術などについての深い知識を習得していたのです。17世紀のテスココの年代記作家フェルナンド・アルバ・イストリソチトル【Fernando Alva Ixtlixochitl】は、先スペイン期の様々な階級や特色、更に年代記政策の主要なテーマと目的について、このように書き残しています。

『その種別ごとに作家がおり、例えば、年代記作成者は毎年の出来事を日、月、時間とともに順番に並べて記録し、系図作家は歴代の王や貴族の子孫を記録していた。都市や地方、村、場所、区画や土地配分の範囲、境界、道標の絵を担当する者もいた。法律書や非キリスト教的儀礼、儀式に活用する本の担当者もいた。それらの中に哲学者や賢者がおり、その知りうる限りの学問や知識を絵に残すことに専念していた。』

これら文書はアモシトリ【Amoxtli】と呼ばれ、永年の使用に耐えられるように処理された細長い紙片でできており、長いもので14mになるものもあります。ページごとに折りたたまれ、竜舌蘭であるマゲイの繊維で縫製し、鹿革で装丁されていました。しかし、その多くの記録たちは、儚い歴史の中に埋もれてしまいます。そのことを修道士ディエゴ・ドゥランは、著書「ヌエバ・エスパーニャおよびティエラ・フィルメの島々のインディアスの歴史」の中で、トラクイロの仕事ぶりの賞賛と古代の知恵が記録された多くの書物が破却されたことを嘆いています。

『絵と肖像を用いた文字は、歴史や昔話や特筆すべき事実、戦争の勝利や飢きんや疫病、繁栄や敵意について書き記すためのものであり、書物や長い巻物全てに起きた年月日が描かれた。これら絵文書に彼らの法律や法令、戸籍も記録されていた。全てが非常に几帳面に記録されており、非常に優れた歴史家たちがいて、彼らの先祖についての広範に及ぶ歴史を描き出していた。無知な狂信者たちが破却さえしなければ、その歴史に多くの光が当てられたであろうに。無知な者たちは、これは偶像であると信じて焼却したのだ。それらは記憶に値する歴史であり、現在のように忘却に葬られるべきものではない。我々が行っている宣教においても、地元の者たちの魂と救済に利用することができたのに、その光は断たれてしまったのである。』

現存する古文書において、ミゲル・レオン・ポルティージャは著書「古写本:新世界の古文書」の中で、これらを真の百科事典と称し『極めて詳細に、ヨーロッパ的な方法でなく、作成された当時の文脈で分析しなければならない』と述べています。つまり、どういうことか。これらの絵文字は日本の文字に関する特色や書道に通じるものがあり、ただ書き記すための方法というだけの文字ではなく、トラクイロや書道家などの何十年もの修行を積んだ達人たちの存在があり、彼らにより双方とも芸術の域に達していることや、どちらもそれぞれの地域の哲学原理に根差した求道精神や熟練度によって創造されているのです。更に文字ひとつひとつに概念が存在し、単なる記録文字ではなく、それぞれ様々な事象を包括しているために他の言語への翻訳が不可能なのです。実際に日本語の「禅」やナワトル語の「トロケ・ナワケ」などは、そのまま翻訳できる言葉がありません。

トラクイロや書道家にとって紙に筆やインク、それに生き方や修行は、双方の文化が花開く以前からずっと極めて重要な要素であり、こうしたことからも私たちの文化がとても類似し、かつ同時にとても異なる点が見えてきます。その異なる点をもっと深めたいと思いますが、紙が足りないようです。したがって、最後に私たちの教養豊かな父祖たちから受け継いだ一端だけを今回はご紹介しましょう。ウェウェトラトリの本からの引用で、ここには先スペイン期の記憶と知恵が散りばめられており、これを読めばトラクイロの仕事が非常に卓越したものだったことがおわかりになると思います。

El libro, la escritura.

Que todo está pintado de negro,


Que todo está pintado de rojo;


Sobre él se coloca la vara del águila, la vara del tigre;


Para que con ella lo vayas hojeando,

Para que lo vayas leyendo.


En él observas cómo es el lugar del misterio, el inframundo y el cielo.

En él miras todas las partes del mundo;

En él es visto el amanecer

Y el resplandor de tu pueblo.

書も記録も


みな黒く塗られぬ


みな赤く染められぬ


そのうちに置かるる鷲の杖、虎の杖

その杖もて捲りゆけ


読み進みゆけ

かく顧みよ、秘められたる場、黄泉、天上の如何にあるかを


そに見やれ、世のすべてを

そに見やれ、あかつきを


汝の民のきらめきを

<出典>

・Fernando de Alva lxtlilxochitl F. de, op. cit., 1527-528.

・Fray Diego Duran  “Historia de las Indias de la Nueva España y Tierra Firme”

・Tradición Oral de México transmitida al escritor por indígenas mexicanos. Huehuetlatolli.

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