メキシコのひとつの風景 カンティーナ【Cantina】

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アブラン・デルガド

この新聞ですでにお話し をしたかもしれませんが、 初めてという方もおられる ので、今回もぜひお付き合 いを。今回の話題はカンティーナです。 カンティーナのことをお話しするということ は、メキシコの歴史や社会文化を垣間見る ということです。

ここには今でも活気ある 人々の姿と築いてきた伝統が息づいていま す。 そう、カンティーナはお酒を飲みに行くとこ ろ、言うなればクラシックスタイルのバーの 総称とも思っていただければ良いのでしょ うか。けど、ただお酒が飲めるだけではあり ません。

パーティーはここで始まり、友人と の語らいを楽しみながら、心地よいひと時 を過ごすための場所。カウンターに座り、 好きなお酒と一緒に自分の人生を眺める 場所。アルコールの力を借りて誰ともなく 語らい、浮き世の憂さを晴らす場所。実際 ここでは、人生の光と影が交錯します。手 前のカウンターではグラス片手に奥さんを 亡くした悲しみから、静かに涙を落とす人 がいれば、奥のテーブルでは笑いと大勢の 人から祝福を受け、喜びが溢れている人。 人生、悲喜こもごもとも言うんでしょうか、 ここではそんな時間が流れることもしばし ばです。メキシコ人にとってカンティーナ は、ある意味神聖な場所、心のよりどころ なんですね。

そんなカンティーナに来てみたいですか。で は、あなたが男性ならお一人で来られても 問題ないでしょう。女性なら、そうですね、 誰かと一緒に来られる方が無難でしょう ね。女性がお一人で来られるのは、まだちょ っと危ないかな。また、お一人で来られるの であれば、カウンター席に座るのがいいで しょう。目の前で色鮮やかなカクテルが作 られるのも見れますし、あなたさえ良けれ ば、マスターと仲良くなってみてはいかがで しょう。だいたいのマスターは親切で明る く、話し好きが多いですね。だから言葉な んて通じなくとも、思い切ってあなたから 話を繰り出せば、お互いの心の扉が開いて 通じ合えるかもしれませんよ。

そうそう、忘れないでください。ここでは何 かにつけて乾杯をしますので。自分の国のメキシコのひとつの風景 カンティーナ【Cantina】こと、家族のこと、ノスタルジー、喜び、上 手くいったこと、思い通りにならなかったこ と・・・小さなことから大きなことまで、理 由や条件なんて関係なく、それがあたりま えのごとく杯が踊ります。そしていかにもメ キシコという雰囲気を味わいたいのであれ ば、マリアッチやトリオがやってくるのを待 ってみてはいかがでしょう。彼らは少しのお 金でここに素晴らしい音楽を運んでくれま す。

一昔前までカンティーナは女性にはふさわ しくない場所でした。トイレが無くて雨どい に用を足していたくらいですから。今は時 代も変わり、カンティーナも新しく変わりま した。接客や雰囲気作りなど本質的な部分 は変わりませんが、バーやレストランバーと して親しみやすくなり、おいしい食事もでき るようになりました。このようなお店を「ボ タネーロ」【botaneros】とも呼んでいます。 ボタネーロの中には、お酒を注文するごと にお料理が運ばれてくるお店があります。 そう、飲めば飲むほど、たくさん食べること ができるのです。

料理は主に郷土料理です ね。でもそこでサルサが出てきたら気をつ けてください。サルサに使われる調味料は、 メキシコ人でも消化しにくいものですから、 香辛料などに慣れていないのであれば、胃 腸薬は持っておいた方がいいかもしれませ んね。 カンティーナはメキシコ各地にあって、それ ぞれの町や村によって異なった趣を持って います。一般的に最も伝統的なお店は、だ いたい町の中心街にあります。

古いカンテ ィーナほど深い歴史やそこから生まれた逸 話があって、それはまるでそこを訪れてきた 人たちのアルコールの吐息まで感じ取れそ うな、泥臭くて、酸っぱくて、でも何か温かく て気持ちいい、そんな情緒溢れた空間を生 み出しては、ガラスに包まれたお酒と友人 との語らいをさらにおいしくしてくれます。

メキシコに住んでいる方も一時の訪問者の 方も、ぜひ一度お店に顔を出してみてくだ さい。家族や友人たちと語らいながら、楽 しく時間を過ごすには最高の場所です。好 きなお酒を飲みながら、おいしい食事も楽 しめる。カンティーナはもっともメキシコを 体験できる場所なのですから

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