学校に通わない選択 メキシコのホームスクール事情

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ホセ・ルイス・ロハス・アルダナ

日本では馴染みの薄いホ ームスクールとは、文字通 り家庭で学習を行うこと で、メキシコでは昔から行っていました。昔 は自宅から学校までが遠く、家での学習が 子どもに教育の機会を与える唯一の選択 肢だったことが大きな背景のひとつにあり ます。ホームスクール発祥地のアメリカで は、現状の教育制度に反発した親たちが始 めたことから、メキシコとは少し事情が違 うかもしれません。どちらにしてもラテンア メリカ、特にメキシコではホームスクールは 「educación en casa」として、既に多くの 人に認知されています。

そもそも教育を受ける権利というのは、国 連で1948年に採択された「世界人権宣 言」において基本的人権のひとつとされ、1 959年に採択された「児童の権利に関す る宣言」では、10条からなる児童の基本的 人権の中のひとつに含まれています。 また、1989年に開催された「児童の権利 に関する条約」の会議の中でも、基本的な 人権のひとつであると改めて唱えられまし た。

ホームスクールは世界中どこでも行われて いるものですが、ドイツでは法律で禁じら れています。アメリカでは全州で合法であ り、アラスカ州などは4つのタイプのホー ムスクールプログラムを提供しています。メ キシコでは、憲法や法律で直接禁止してい る記載はありません。基本的にはどの州で も年度末の進級テスト(小学校の場合は国 語と数学、中学校の場合は国語、数学、英 語、理科など)をパスすれば、ホームスクー ルを誰でも実施することができます。

主立った例としてハリスコ州では、健康が 理由で学校に通えない子どものいる家庭 を対象としたホームスクール実施のための 支援プログラムがあり、ハリスコ州教育省 のホームページでは具体的な教え方につ いてまとめた指南書などを公表しています (※1)。この他にも様々な支援プログラム などがあり、メキシコ全土の中でもホーム スクールに積極的な取り組みをしていると 言ってもよいでしょう。

ホームスクールで育ったメキシコ人の中で、最も成功した一人にバレエダンサーのイサ ック・エルナンデス氏が挙げられます。旧ソ 連出身のルドルフ・ヌレエフ氏、イギリスの マーゴ・フォンテイン氏、イタリアのカルラ・ フラッチ氏といった伝説的なバレエダンサ ーたちが受賞した、世界的に権威のあるバ レエ賞のひとつ、イタリアのレオニード・マシ ーン賞をメキシコ人として初めて受賞した 人物です。

イサック氏はホームスクールについて、普通 の学校教育では育つことが無いであろう能 力をホームスクールで培えたことや、特にク リティカルシンキング、疑問を持つ視点、集 団性や責任感といったものがホームスクー ルではとても養えたと、彼が受けてきた学 習のメリットを強調しています。彼の家は1 1人家族で、しかも質の良い教育を与える 環境も無かったことから、父のエクタール が教師役となってテレビなどに頼らず、子ど もたちの想像力を膨らます教育を行ったと も述べています。そうして子どもたちはバレ エや空手、音楽などの奨学金を得ながら、 レベルの高い教育を受ける機会を得ていき ました。ちなみに彼の兄弟であるエステバ ン・エルナンデスも世界的なダンサーで、サ ンフランシスコ・バレエ団のプリンシパルで す。

メキシコシティにある調査会社「de la Riva group」が行ったホームスクールに関する 調査「Teacher moms」によると、現在、メ キシコ人でホームスクールを選んだ親の 多くが「子どもの可能性を最大限に引き出 し、小さい頃から子どもの好奇心や自発的 な学習能力を育てたいから」という理由で ホームスクールを選んでいます。彼らの多く は、現在の教育システムが自分の子どもに 施したい教育と一致していないと感じ、学 校の教育は、ホームスクールで行うような 読む、話す、観察する、体験するという「非 公式な」効率的な学習を考慮していないと 考えています。子ども一人ひとりが違うこと から、それぞれに合った学習方法を用いて 興味や関心を身に付け、それをさらに伸ば すことができる教育を施したいと思ってい るようです。

ホームスクールのメリットは、子どもの興味 や関心、能力を判別してそれらを掘り起こ すような、学校とは違った個別の学習方法 を生み出すことができる点です。例えば、公 園の動植物を観察することで生物学の授 業となり、メルカド(市場)に行って色々な 重さの単位が目に入れば数学の授業となり ます。日常のちょっとしたことを理想的な教 育に変えられるのです。その他に授業料や制服代、交通費などの出費が無いので、経 済的に学校教育よりも安いということもあ ります。しかしながら、常に子どもの傍に教 育者として親がいる必要があるのも確かで す。

教育評論家のホセ・エリセオ・バジェ・アパ リシオ氏の報告書「Enseñar en casa o en la escuela」によると、ホームスクールを実 施する全ての親が、子どもに必要なことを 教えるために意識して学習内容や教え方を 組み立てていると報告しています。ホームス クールについては賛否両論など色々とあり ますが、多様化する社会の中で子どもの人 生の目標を達成するためのライフスタイル のひとつとして考えることもできるのではな いでしょうか。

※1 ハリスコ州教育省ホームページ https://se.jalisco.gob.mx/content/guias-escolares-para-estudiar-en-casa

<記事参照・参考> ・redalyc.org:http://www.redalyc.org/articulo. oa?id=13224551011 ・EL FINANCIERO:http://www.elfinanciero.com.mx/ after-office/isaac-hernandez-el-genio-se-hizo-encasa ・Selecciones:https://selecciones.com.mx/homeschooling-una-educacion-practica-y-a-la-medida/

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