フランスの牙城が崩れる時 チャンピオン争いと変化の兆し

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エイドリアン・モリーナ

■混迷を見せるドライバー ズ・チャンピオン争い

今年の世界ラリー選手権 (以下WRC)は、これまでのところ14年 ぶりにフランス人以外のドライバーがチャ ンピオンを獲得する可能性が出てきまし た。まだ3戦を残しているものの、トップの ベルギー人でヒュンダイのティエリー・ヌー ビル選手と13ポイント差で肉迫するエスト ニア人でトヨタのオット・タナック選手との ドライバーズ・チャンピオン争いが熾烈を極 めてきました。去年のチャンピオンでフラン ス人のセバスチャン・オジェ選手は、トップ から23ポイント差の3位に甘んじているも のの、この争いにいつでも食い込める状況 です(※1)。

波乱に満ちた9月の第10戦ラリー・オブ・ ターキー(トルコ)が、今シーズンのチャンピ オン争いをさらに予想困難にさせました。 このラリー・オブ・ターキーを制して第8戦 のラリー・フィンランド、第9戦のラリー・ド イチェランド(ドイツ)と3連勝で今季4勝 目を飾ったタナック選手は、愛車のトヨタ のヤリス(日本名ヴィッツ)を使いこなすコ ツを掴み、ドライバーズ・チャンピオンのトッ プの座が大きく見えてきました。対するライ バルのヌービル選手は、このトルコではトラ ブルが発生して表彰台に上ることができま せんでしたが、トップを守るだけのポイント を獲得したところはさすがです。

この14年間、WRCのドライバーズ・チャ ンピオンは、2004年から2012年まで はセバスチャン・ローブ選手、2013年か ら昨年の2017年まではオジェ選手と、フ ランス人ドライバーが連覇し続けてきまし た。ローブ選手はシトロエンで前人未到の 9連覇を達成し、一方のオジェ選手は、5 連覇中4度はドイツのフォルクスワーゲン で、昨年はイギリスのMスポーツというチー ムのフォードに乗り換えてチャンピオンに 輝いています。

両者とも素晴らしい走りで3月のグアナフ アト州で行われたコロナ・グアナフアト・ラ リー(以下ラリー・メキシコ)を制した経験 があり、今年のラリー・メキシコでは、この 2人のレジェンドが直接争って火花を散ら した数少ないレースです。現役復帰したロ ーブ選手は、全盛期を思わせる走りを見せ たもののトラブルが響き、直接対決ではオ ジェ選手に軍配が上がっています。

レジェンドの2人が連覇街道を築き上げる前にドライバーズ・チャンピオンを獲得した のが、2003年のスバルで参戦したノルウ ェー出身のペター・ソルベルグ選手です。ス バルの名車インプレッサWRCを駆り、とて もインテリジェンスかつ、エキサイティング な走りを見せ、今も印象に残る名ドライバー です。彼がチャンピオンを獲得した2003 年、たった1ポイント差の逆転というドラマ ティックな結末を迎えたことも、今でも往 年のラリーファンから語られる理由のひと つでしょう。最終戦までトップのローブ選手 と1ポイント差だったソルベルグ選手は、最 後のラリーGB(グレートブリテン)で一騎 打ちとなり、そこで持ち前の豪快な攻めの 走りでベストタイムを連発して、彼は見事ド ライバーズ・チャンピオンの栄冠を手に入れ たのです。

■光りを取り戻したトヨタの強さ

今年のドライバーズ・チャンピオンシップ が僅差だということはお伝えした通りです が、メーカーチャンピオンを決めるマニュ ファクチャラーズ・ランキングも5ポイント 差ともっと僅差です(※1)。こちらも残り3 戦、目が離せない状況になっています。 前戦のラリー・オブ・ターキーでトヨタのタ ナック選手とヤリ=マティ・ラトバラ選手 の1-2フィニッシュが奏功し、ヒュンダイを 抜いて一気にトップに躍り出ました。ヒュン ダイはニュージーランド出身のヘイデン・ パッドン選手が3位に入り、トップの座を許 したものの2位を維持しています。続く3位 には、イギリスのMスポーツが入っています が、トップとの差は40ポイントと開いてい ます。

トヨタが復帰2シーズン目でポテンシャル のとても高いヤリスを作ったこと、そしてタ ナック選手という相性の良いドライバーと 契約し、彼が限られた時間の中で車の性能 を極限まで活かしていることは、注目に値 することです。特に前戦の2010年以来8 年ぶりに開催されたラリー・オブ・ターキー では光るものを見せつけました。 このコースはWRCの中で最もコンパクトか つ、久しぶりの開催ということでデータも乏 しく、そこに高温などのかなり厳しい環境が 重なり、トラブル無しに完走することは難し いと予想されていました。実際、最終日ま でに14台がリタイアするサバイバルな展開 を見せたなか、トヨタは1-2フィニッシュを 飾り、3戦連続でまたしても表彰台の2つ を占めたことは、ドライバーの実力を十分 に発揮できるチームの総合力や技術の高さを証明したと言えるでしょう。 今季はラリーGB、ラリー・スペイン、ラリ ー・オーストラリアの3戦が残っています。 この3戦は間違いなく接戦となるでしょう。 上位3選手と2メーカーがチャンピオンに 輝くためには、どんな些細なミスも許され ません。

■変化の時代を迎えたWRC

新しいチャンピオンの登場は、今まで帝国 を築いてきたフランス人ドライバーにあと 一歩のところで敗れていた新世代のドライ バーによる、新しい時代の幕開けを意味し ており、今シーズンは新しい歴史を刻む、い わば貴重な転換期とも言えるかもしれませ ん。 そして来年はWRCにとって重要な変化が 生まれる年です。それはレースカレンダーに表れており、ヨーロッパ以外の強豪国として WRCで名が馳せた国、そしてレースでも力 強さを見せる日本が、WRCの開催地として 戻ってくるかもしれないのです。現段階で 来年の開催が決まっているのは、モンテカ ルロ、スウェーデン、メキシコで、そのラリ ー・メキシコは、グアナフアト州で3月7~1 0日まで行われます。日本開催が決定すれ ば、おそらく11月頃と言われています。

モータースポーツ、特にラリーファンたち は、来年のラリー・メキシコを今か今かと待 ちわびていることでしょう。新しい風が吹 き始めたWRCと開催国としての円熟期を 迎えるラリー・メキシコは、15年の歴史の 中で一番輝かしく、そして印象深いレースを 観衆の心に刻むことは、まず間違いないで しょう。

(※1) 9月16日の第10戦終了時のランキングを参 照。

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