カンティーナ  La cantina – メキシコの酒場 –

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アレハンドロ ムニョス • フォトジャーナリスト

一言で言い表すのはとて も難しいのですが、カンテ ィーナ【La cantina】とは、 クラシックなバーとでもイメージしていた だいければよろしいのかと思います。そこで は友人と酒を酌み交わしたり、自分の悲運 をバーテンダーに愚痴ったりと、まぁ、楽し み方は人それぞれです。 カクテルやテキーラを注文する。いいえ。 あなたの好きなもの、飲みたいものを選ん でください。だってここはメキシコのカンテ ィーナです。

お酒の種類に縛られることは ありません。 ここは歌や詩、小説や映画で描かれるよう なそんな場所ではありません。そうですね、 もっと人の悲しみとか涙、喜びや友情なん かがタバコの煙のように肌に絡まる、そん な人生の一瞬を潤わす、そんなような所で す。

少しカンティーナの歴史をお話しましょう。 溯ること1846~48年、メキシコとアメリカ がテキサスを巡って戦っていた際、カンティ ーナはこのアステカの国に辿り着きまし た。アメリカ兵がアルコールを飲む場 所を求めたのがきっかけとなり、今 あるカンティーナの姿が生まれ たのです。テーブルを囲んで男 どもが酒を飲む姿は、当時の メキシコでは革新的でとても ユニークなスペースでした。そ の名残でしょうか、「女性の来 店を禁ずる」という看板が掲 げられているのが一般的でし た。

1982年までカンティーナに は男性しか来店を許されず、女性 がここで飲めるようになった時、多 くの常連客は抵抗し、来店をやめた話 まであるくらいです。 ルールというわけではありませんが、ここで は紳士が泣いたり、感情を露にされてもか まいません。ただし、自分の奥様に見られ なければの話ですが。止められたり、求め られない限り、したいようにする。笑いたけ れば笑う、泣きたければ泣く。ここで怒って スッキリすれば、やがてハッピーになる。オ ーバーな言い方をすれば、感情の救済とで も言うのでしょうか、それがここの良いとこ ろです。

最高のテキーラのショットと出会った時は、 「las penas con pan son buenas」と言って ください。カンティーナは、多忙な日常から ほんの数時間だけ別世界へと誘われるとい う、実に最適な口実を持ち合わせたところ なんです。 事実は小説より奇なりと申しますが、ちょっ とした悲喜こもごも、喜怒哀楽なんてもの がメキシコのカンティーナでは見られるわ けで、ここでも様々な人生模様が展開され ます。

でもやはり親友や会社の同僚たち、 家族といった気の合う人たちと思っていた 以上に楽しく時間を過ごされることが一番 だと思います。誕生日、卒業式、結婚式のパ ーティー、仕事の打ち上げ、プロジェクトの 成功祝い、ニューイヤーパーティーに子供 の誕生。全ての人の、その全ての喜びにお 応えできるところでもありますから。

もちろ んあなたの愛の痛みを癒すことも忘れませ ん。フレンドリーなウェイターが、あなたに 合わしたメニューで、不思議なくらいその痛 みを晴らしてくれるはずです。 長い歴史を持ったカンティーナには必ずと いって良いほど逸話があり、そんな人たち の写真が壁に飾ってあったり、歴史的な建 造物になっていたりと、古典と伝統が生ま れています。

でもそれだけではありません。 長く生き残れるということは、例えば音楽 や照明などを現代風に変えるなど、誰にで も受け入れられる「今」に適応できる幅を常 に持ち合わせていることも忘れてはなりま せん。それぞれに変化や違いを持っている にもかかわらず、そこから共有できる部分 にスポットを当てる。バラエティ豊かなお食 事、様々な種類のドリンク、ミュージシャン やDJたちのライブミュージック。もちろん多 くのファンを持つ古くから行われているシ ョーだってそうです。それらは時代と共に変 化し、それぞれがそれぞれに違っていて、全 てバラバラなものと見られがちですが、それ をいつの時代もひとつのスペースにまとめ られるのがこのカンティーナなのです。

そし てお客様の予算に、私たちの美しいメキシ コの各都市に合わせてカンティーナは今も 生きています。 メキシコを訪れる旅行者から観光ポイント として、またここに住まれている海外から来 た人たちからカンティーナを経験したいと いう声をよく耳にします。今では誰でも気軽 に入れ、簡単に伝統に触れることのできるスペースになっていますので、どうぞご来店 ください。ただし18才以上ですが。

このように人々の興味を引くカンティーナ は魅力ある場所です。歌手、舞踏家、作家、 音楽家、画家、様々な芸術家が、ここでイマ ジネーションが刺激されて成功へと導かれ ていきました。音楽の世界でJosé Alfredo JiménezやChavela Vargasなんかはその代 表例と言えるでしょう。メキシコ人は話し好きです。カンティーナ で気の合う仲間や親戚たちとドリンク片手 に、時には世界を変えるなんて話で盛り上 がったりして。そこにはいつものテキーラに いつものマリアッチ、José Alfredo Jiménez の「El Jinete」や「El Rey」が流れていたりし て。1杯を飲み干しても、それが決して最後 の1杯にならない。なぜならカンティーナで の宴は、あなたが刺激され、満たされずに さらなる喜びを欲しがってしまう。それほど 盛り上がって楽しい宴だからです。

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