十字架の道を歩む兄弟たち 移民に待ち受ける困難と希望

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■過去最大規模の大移動

メキシコはラテンアメリカで唯一のアメリカと国境を接する国であることから、ラテンアメリカからの移民たちが陸路でアメリカに渡る際、必ずメキシコを通ります。

アメリカへの旅路は、時には猛スピードの列車にしがみつき、時には激流の川を渡り、まさに過酷そのものと呼べるでしょう。住み慣れた土地を離れてメキシコを縦断してアメリカへと向かう。それは困難を極めることを意味し、時には死が待ち受けています。苦境を乗り越え国境に着いてアメリカに保護申請を行うと、長い間思い描いたアメリカンドリームが希望の光として差し込み、幾ばくかの平和と何よりも価値のある生きる権利を手に入れたと実感できるのです。

こういった未成年者を含めた移民たちは毎年キャラバンを組織し、「Pueblo sin Fronteras」といった非政府組織が、メキシコ南部から北部のアメリカ国境沿いへと合法的に到達できるように彼らの支援を行っています。しかし、今年は少し様子が違うようです。

その大部分がホンジュラス、グアテマラの人たちで構成された移民キャラバンは今年、セマナ・サンタ(※1)からその旅路を始めたことから「Viacrucis Migrante(十字架の道)」と呼ばれています。今回は過去最大規模の1000人以上もの人が集まり、チアパス州タパチュラから北部の国境沿いの町ティフアナに向けて出発しました。Pueblo sin Fronterasのディレクター、イリネオ・ムヒカ【Irineo Mujica】氏は2010年から支援活動を行っており、9回目を迎えた今年、キャラバンの歴史を変える出来事がおこったと述べています。

キャラバンが4月5日にメキシコシティに到着すると、メキシコ政府はアメリカのトランプ大統領の圧力からキャラバンを解散させたのでした。そのせいでPueblo sin Fronterasは十分な支援が行えず、移民たちは各々でメキシコシティから仲間の待つティフアナまで自分たちの足だけで向かわざるを得ない状態となりました。5月4日の時点で、国境まで到着して保護申請が行えたのは228人で、100人はティフアナで立ち往生し、300人はソノラ州エルモシージョまでしか到達できていません。

キャラバンはメキシコ政府に対して、アメリカからの圧力を弱めるように求めましたが、アメリカ政府はその答えをツイッターで彼らを「動物」と呼び、侮辱した形で表しました。最悪な事態を想定したメキシコ政府は国境地帯南部に軍隊を派遣し、キャラバンに対してこの旅を止めさせるべく、1年間は滞在できる一時的な仮住居を提供しました。もし、これがメキシコ政府による彼らにビザを与えるためのプロセスの一環だとしたら、移民たちにとってはまたとないチャンスです。そこで多くの移民たちはメキシコ政府の要請に従い、メキシコに滞在することにしたのです。

メキシコからの要請は素晴らしく、これを受け入れるべきだと移民たちには映りましたが、現実は甘くありませんでした。

ソノラ州エルモシージョの男性15人が、テントや木陰の下で赤十字社のサポートを受けながら、5月9日からハンガーストライキを始めました。その理由は、メキシコ政府が人道的理由からビザを与えると約束したにも係わらず、この日まで誰にも与えていないとわかったからです。ただ、ストライキに15人しか参加していないのは、キャラバン全体を危険に晒さない程度に設定し、なおかつメキシコ政府が取った行動に対し反発するだけでなく、自分たちのビザ獲得のために動いてくれることを期待してこの規模の人数に抑えていることを表すためでした。

■移民が歩き続ける理由

なぜ、彼らが祖国を離れたのかをもう一度考えることが重要です。彼らの国々は貧困や慢性的な暴力、飢え、軍隊よる圧政、政治的危機、汚職、殺人、組織的犯罪、誘拐など様々な問題が横行しており、これらの問題から逃れるために国を離れた、いや、国を離れるしかなかったのです。
もちろん、この旅路にも多くの危険があることやメキシコを縦断するにあたり、命を失うかもしれないことも承知のうえです。メキシコでは、警察の違法的な取り締まりを受けるだけでなく、多くの犯罪組織から暴力を振るわれるなど、彼らの基本的人権は踏みにじられています。特に被害を受けやすいのは、女性や子供などの弱い立場にある人たちでしょう。

ただ、彼らに待っているのは絶望ばかりではありません。ベラクルス州には「La Bestia(ザ・ビースト)」という移民を北部へ運ぶための列車があり、その列車に乗る移民たちに譲り受けた食べ物を手渡すなどの支援を行う女性ボランティアの「Matronas(助産師たち)」というグループもいます。朝に出発する列車は、いつも多くの移民でごった返しており、列車の天井部に乗る人もいるほどです。目の前に危険が迫るなか、移民たちにとってこの食事は生きるための希望であり、口に入れた時に感じる食べ物の温かさと何より人の温かさを感じたいために、必死になって手を伸ばすのです。

そんな彼らへのMatronasやPueblos sin Fronteraの行動は、自分たちの信条の下で人道的支援を行っている一例にしかすぎません。メキシコもアメリカも基本的人権を尊重し、必要な人に人道的支援を行う国連憲章を遵守している国です。今や団体や組織レベルでは対処しきれず、多くの国の政府レベルが連携してこうした移民たちを助けるための積極的な行動が求められています。無条件に市民権やビザを与えろというわけ

ではありません。国際的な協力の下、ラテンアメリカの人たちが人生の希望を見出すために、他の国に行かずとも自分が住む土地で、人間としての当たり前の環境で過ごせるようにラテンアメリカの国々に対してもっと話し合いを持つべきではないでしょうか。

そこでまず各国政府は、基本的人権を守る観点から移民たちを保護すべきでしょう。そしてホンジュラスやグアテマラのラテンアメリカ諸国は、国から離れないように国民の基本的人権を尊重し、それを第一とする国家運営に舵を切るべきです。そのような流れができれば経由地であるメキシコは、国際的な基準、個別の事情に配慮して移民の権利を尊重することができるでしょう。

何よりも彼らと私たちは同じ人間なのです。同じ人間なのですから彼らがアメリカなど目的地へ到着するまで、人として尊重しなければいけません。いつか、私たちの「兄弟」が辿った道々が、人間にとっての当たり前の人生であるという敬意が払われる時代が来ますようにと、今は祈るばかりです。

(※1)セマナ・サンタ:イースター(復活祭)のこと。日本語で「聖週間」とも呼ばれる。

<参考文献>

・El Universal. Inaceptable decir que migrantes son animales; México. 18 de mayo de 2018.

・Mundo Sputnik. México dio asilo a más centroamericanos de la Caravana migrante que EEUU. 16 de mayo de 2018.

・Debate. Caravana Migrante se Aferra a Huelga de Hambre en México. 9 de mayo de 2018.

・Huffingtonpost. La Verdad sobre la Caravana de Migrantes de la que Trump no para de hablar. 26 de abril de 2018.

・Expansión. La Caravana de Migrantes llega a la Ciudad de México. 9 de abril de 2018.

・Expansión. Trump Celebra la Disolución de la Caravana Migrante en México. 5 de abril de 2018.

・El Universal. Entran a EU los últimos centroamericanos de la caravana migrante que cruzó México. 4 de mayo de 2018.

・El Universal. Trump cuestiona a México por Migración. 5 de mayo de 2018.

 

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