日本人が知らない “チレ”の世界 メキシコ美食探訪その4

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日本人の方の中には、メキシコの食べ物はなんでも辛い!と思っている方も多いでしょう。けれども答えはNOです。

すべての料理が辛いわけがありません。しかし、チレ(唐辛子)は私たちメキシコ人にとって、毎日の食卓に欠かすことができないものです。チレは、生のものもあれば乾燥しているものもあり、ソースとして使うことも、そのまま生で食べることもあり、料理のつけあわせとして使うこともあればメインディッシュとして、または飲み物のなかに使われることもあります。チレは変幻自在なのです。実際、このメキシコには、64種類のチレがあり、専門家の中にはメキシコ原産のものは200種類あるといっている人もいます。ちなみに、そのうち25種類はオアハカ州にあります。今回の記事では、みなさんにメキシコの誇るチレの世界へとご招待しましょう。口から火を噴く準備はできましたか・・・

そもそも、全てのチレはアメリカ大陸が発祥です。その学名はcapsicum(トウガラシ群)。ただし、そもそもの起源は南アメリカだとされています。植物学者の中には、南米のアンデス山脈、もしくはブラジルの南西部が発祥だと主張する人もいます。メキシコに来たのは、guacamayas(インコ属の鳥)や鷲などの大型の鳥のおかげだといわれています。彼らは、チレを食べ、その種子がおなかの中に入ったまま、長旅の末、メキシコの大地に落としていったのです。こうして鳥の落とし物の中で、プレヒスパニック時代(前植民地時代)のメキシコ人たちは、有名な4つのものだけ育てていったのです。それが、capsicum annuum(日本の一般的な唐辛子), capsicum frutescens(キダチトウガラシ), capsicum chinense(シネンセ種) そして capsicum baccatum(アヒ・アマリージョ)です。この4つの種類も今では様々な種類のものに細分化されていっています。チレは私たちの国では、5000年以上も前からレシピに含まれていたのです。

メキシコの街角にあるメルカド(市場)に足を運べば、目の前には2つの種類のチレが山積みの光景を見ることができると思います。生のタイプ(フレスコス)と乾燥しているタイプ(セカス)のものです。実はもともと同じ種類のチレですが、私たちは慣習的に違う名前で呼んでいるのです。少し複雑になってきましたが、ご安心を。ここでは代表的なものだけ説明していきます。

チレ・セラーノ(セラノペッパー)というものがこの国で一番消費されているおり、小さい円筒型のチレで、先がとがっています。このチレは種も全て食べます。ただし、辛さを控えたかったら種は控えた方がいいです。セラーノという意味はスペイン語で「山脈」の意味で、プエブラやイダルゴ、ベラクルース、ソノラ、メキシコの各州の山脈で作られていることからこの名前が付けられました。もし、レストランなどでサルサ・ベルデ(緑のソース)があったら、必ずこのチレが使われているはずです。

そして皆様よくご存じのハバネロ。世界中で、メキシコで一番辛い唐辛子としてその名が知られたチレの一つです。(余談ですが、ソノラ州の人から言わせると『チルテペ』という唐辛子の方が辛いそうですが・・・)。ハバネロはユカタンやカンペチェ、キンタナローの各州で栽培されています。

実はハバネロは、指定された地区で栽培されたものしか「ハバネロ」と呼ぶことができなくなっています。このチレは、メキシコ国内でも南東部でよく食べられ、多くのメニューに使われています。コチニータピビルという伝統料理によく使われているので、ぜひお試しあれ(でも強烈な辛さには注意を)。

次はポブラノです。このチレは、他のチレとは全く違う、外見的な特徴が2つあります。1つ目はパプリカのようにとても大きく、8センチ~15センチほどの長さに育ちます。そして直径も6センチと、とても太いです。またこのチレは、花柄とよばれる果実を支える部分(茎の部分)が凹型に大きくへこんでいます。このチレは、それほど辛くないですが、もし辛さを抑えたいのであれば、種や中にある筋のような部分をあらかじめ取り除くことをおすすめします。ポブラノはそのまま食べてもおいしいですし、中に肉などをつめてピーマンの肉詰めのように食べてもおいしいでしょう。またスライスして、コーンやチーズ、生クリームをまぜて食べるのもいいです。また、焼いたあとトマトソースにくぐらせて食べてもおいしいです。このチレをよく熟し、乾燥させると色が黒っぽくなったり赤くなったりします。黒っぽいものは、mulato de sabor dulzón(直訳すると甘いムラート)と呼ばれ、赤っぽいものはチレ・アンチョ(平べったいチレ)とよばれます。2つとも、メキシコの伝統料理モレを作るのに欠かせない素材です。

他にメキシコ人が料理によく使うチレとして、cuaresmeñoというチレがあります。これはいわゆる「ハラペーニョ」とよばれるチレで、生のものでは緑色のものから深緑色、赤色のものまで様々あり、赤い方が辛さは控えめです。ハラペーニョでも乾いたものがあり、それは乾いたものはモリ―タ(morita)と呼ばれ、甘辛い味へと変化します。またはチポトレとよばれる場合もあり、これはマリネによく使われます。このチレは特徴的で、燻製してつくられます。その起源はプレヒスパニック時代までさかのぼります。
さてチレの世界を少しだけ覗いてみましたが、このチレ、メキシコではお菓子やキャンディーなどにも使われます。使うのは乾いたタイプのチレの粉末で(ピキンというチレやチルテペの乾いたものを使う場合もあります)。日本人のみなさんからすると、なぜ甘いものに唐辛子を入れるのかと思うかもしれませんが、これはメキシコ人にとっては、もう病みつきになる味なのです。

〇ハバネロは45万 辛さを数値化してみると・・・

例えば、普段辛い物を食べていない場合だと、メキシコの料理はどれもすごく辛いと思われるでしょう。この「辛い」という基準はとても曖昧ですが、チレに含まれている辛み、つまり辛未成分に対応する科学的成分を測る基準というものが存在するのです。これはスコヴィル値(Scoville)と呼ばれるもので、トウガラシのエキスの溶解物を5人の被験者が辛味を感じなくなるまで砂糖水に溶かした時の、その倍率のことを指します(つまり、とあるチレの成分を溶かして、砂糖水で10倍薄めた時に辛くないと感じた場合、10ということになります)。この方法は、チレが育った地域で辛み成分の量が多少かわってくることから、そこまで正確だとはいえませんが、それでもチレの辛みレベルを客観的にみる尺度として使えます。

世界中で一番辛いチレは、スコヴィル値は約300万です。でもご安心を。これはメキシコの唐辛子ではありません。メキシコで一番辛いとされているハバネロでさえ、10万~45万です。ハバネロの最大のライバルはロコト(rocoto)と呼ばれるチレで、スコヴィル値は10万~35万とされています。赤いものから黄色いものまでありますが、黄色くなればなるほど辛いのです。
震えあがるような辛さのチレを紹介しましたが、辛いのダメ―!という方々、ご安心ください。アルボル(el chile de árbol)というチレを食べることをお勧めします。アルボルは細長いチレで、スコヴィル値は1万5千から3万だとされています。フライにして食べたり、ソースに入れたり、シチューに入れるのもいいでしょう。

〇バナナ?炭酸?水? 辛さを抑えるにはどれが効果的?

メキシコ人は誰もが辛さを緩和させる自分なりの方法というものを持っています。私の個人的な意見では、氷を2つ口の中に入れ、それが解けるまで待つのがおススメの方法です。もちろん他にもこれ以外にもたくさんのいわゆる「辛さ撃退方法」がありますが、中にはスプーン一杯のオリーブオイルか植物油を飲むという方法や、牛乳コップ一杯を飲む人、アボカド1スライス分を食べる人などもいます。

皆さんが一般的にやっている「水を飲む」という方法・・・。残念ながら、その方法はあまり効果がありません。もし「炭酸水を飲めば」という人がいたら、もうその人は信用してはだめです!炭酸は辛み成分を増やしてしまうからです。テキーラを飲めば辛さが消えるという人もいますが、万人に通用するわけではありません。辛さを消す方法として、バナナを食べることも効果があるとされています。もし手元にない場合、塩を少々なめるのも良いともいわれています。

今回は日本の皆さんが知っているようで知らないメキシコのチレの世界を紹介してきました。

さて、この記事を読んで、チレ料理を作って みたくなったみなさんに朗報です。今回のMexico新聞youtubeチャンネル「La vida no vale nada」では、チレを使ったメキシコの代表的な3つのソースの作り方を紹介しています。メキシコのチレの紹介や、チレのチーズ詰めなどチレを使った簡単なレシピも紹介していますので、ぜひご視聴あれ。

ちなみに、映像では、チレをあまり普段食べない日本人2人が、メキシコの本格的なソースにトライしています。さて、この2人は大丈夫なのか?? どうぞお楽しみを。

(あ、でも見るだけで辛くなると思いますので、氷のご用意を忘れずに。バナナでもいいですよ。)

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